今回参加したみなさん 撮影:水本誠時

2022年10月下旬、南山自治会で法事やお祝い事(しきわごと)の料理をつくる会が開かれた。現在、南山地区では郷土資料を地元住民が中心となって作っている。その中で料理もまとめることになり、地区に暮らす70-80代のおばちゃん7名、おいちゃん2名で昭和30年ごろまで行われていた「しきわごと」の料理を思い起こしながら再現することとなった。

しきわごとのメニュー

なぜ、しきわごとの料理を調べるのか

小田では冠婚葬祭のように法事やお祝い事の席を「しきわごと」と呼ぶ。しきわごとでは必ず専用の料理が出される。昭和30年ごろまで、しきわごとの料理は集落5-10軒のお母さんたちが集まって作っていた。以降、葬儀屋や結婚式場、地元の料理屋に仕出し・オードブルを注文するようになり、お母さんたちが集まって料理をつくる習慣はほぼなくなった。

地元のお母さんは毎日ご飯を作り、家族にふるまう。地元でとれるものをどうやったら美味しく食べられるかを熟知している。「しきわごとの料理」は地元の食材を知り尽くしたお母さんたちが知恵と技を持ち寄り、お客様用に作る料理と捉えることもできる。

そして5-10名の年代が多少ずれていることで知恵と技が脈々と受け継がれ、時代と共に変化しながらも地域のおもてなしの料理が受け継がれてきた。

まとめると「しきわごとの料理」は、お客さまのための料理であり、地域の食材を知り尽くしたお母さんたちが受け継いできた味でもあるため母ちゃんたちによる時空を越えたノウハウがたっぷりの「地元のおもてなしの料理」といえる。

以上から、しきわごとの料理を調べることで、現在の小田地区の豊かな食文化を紐解くのに役に立つのではないかと思い調べることにした。

しきわごとの料理

主なしきわごとは、お祭りや落成式などのお祝いごと(祝言)、法事、葬式の3種類に分かれる。それぞれ7品、6品、4品と品数が変わる。おかずの種類が変わるというよりも7品の中からお葬式になるにつれて品数が減るイメージだ。

【7品】お祝いごと

小田の南山地区では7品が定番

お祝い事が一番豪華だ。

  • お煮しめ(煮物):カボチャ、里芋、大根、椎茸、にんじん、乾燥たけのこ、厚揚げ、昆布、こんにゃく、ごぼう
  • いり焼き(煮付け):さば(イワシ、アジの場合もあり)、生姜
  • 天ぷら:さつまいも、カボチャ、椎茸、さば
  • バラ寿司:米、インゲン、卵、かまぼこ、ちくわ、にんじん、油揚げ(松山あげ)、しいたけ、ゆず酢
  • 酢漬け(酢の物):さば、ハスイモ、にんじん、きゅうり、かぶ、わかめ、ゆず
  • とろいも:つくねいも
  • 煮豆:ニシキ豆
  • 白和え:豆腐、ほうれん草、にんじん、かまぼこ、こんにゃく

7品がつくられ、季節や地域によって食材や味付けの差はあるものの大体こんな感じ。

【6品】法事

お祝い事に比べていり焼きが減っている。里山の小田にとって魚は豪華な食材だったそうだ。

祝い事からいり焼きが減り、6品になっている

【4品】お葬式

お葬式は質素に。死を意味する4品でもあるそう。

白和えとすり芋が減った。またよく見ると、酢の物から鯖が減っている。

【シメ】

最後の〆は小田のたらいうどんをみんなで食べる習慣がある。

・たらいうどん[出汁]いりこ、椎茸、大豆、乾椎茸、

・たらいうどん[薬味]:すりゴマ、柚子の皮、しょうが、ネギ

【お土産】

竹皮で包んだおみやげ

お土産にはバラ寿司(ちらし寿司)、おもち、湯がきうどんが定番だ。余ったおかずも持ち帰っていたそうだ。また持ち帰る容器としてプラスチックが無い時代は竹皮や里芋の葉っぱで包んでいたらしい。

・バラ寿司:米、インゲン、卵、かまぼこ、ちくわ、にんじん、油揚げ(松山あげ)、しいたけ、ゆず酢

・おもち:餅米

・湯がきうどん:小麦など

【お酒】

ビールはなく、日本酒、焼酎が定番だったそう。昭和30年ごろまでは税務署に見つからないよう地元でどぶろく・焼酎も自宅で製造し飲んでいたようだ。

7品目のレシピ

ここからは7品のしきわごとそれぞれをざっくりと説明する。

お煮しめ

①具材をカットする。乾燥のタケノコは戻す。

②煮しめのダシをつくる。小田の出汁はいりこと乾しいたけが軸となる。調味料は醤油、酒、味醂、砂糖、塩を使う。いりこを浮かせてお湯をわかし、深みのあるダシにするため、だしの素なども入れる。

③具材を煮付ける。具材ごとに煮付けるのがポイント。特にカボチャやサトイモは煮崩れしやすいので分ける。同じ煮汁を繰り返し使う。少しずつ薄くなるので調味料を足していく。また、バラ寿司の時に使った煮汁も再利用する。

④完成。

いり焼き(鯖の煮付け)

①煮汁をいりこだし、醤油、酒、砂糖からつくる。生姜を厚めにカットしておく。

②煮汁にサバを入れ、生姜も入れる。落としブタをして煮る。

③完成

天ぷら

①食材をカットする。かぼちゃは形が良くなるように角を落とす。(落とした端材はまかない飯のかき揚げになる。)

②衣を卵、小麦粉、米粉でつくる。

③具材ごとに揚げていく。天かすなどは焦げるので、都度、油から取り除く。

④完成

バラ寿司

材料:米、卵、かまぼこ、ちくわ、にんじん、油揚げ(松山あげ)、しいたけ、ゆず、[いろどり] 青インゲン、ナンテンの三つ葉
調味料:お酢、砂糖、醤油、酒

① お米を2升(20合)炊く。炊き込みご飯や酢飯の具材は1升(10合)を基準に準備をするそう。
② 椎茸、にんじん、こんにゃく、ごぼう、ちくわを、いりこだし、醤油、さとう、酒で煮汁を作り、煮る。かまぼこは色落ちを防ぐため、合わせ酢に漬けておく。
③ お米が炊けたら寿司ハンボに出し、かまぼことお酢を入れる。煮ていた具材の煮汁を切り、お米と混ぜ合わせる。切った煮汁は煮しめの煮汁に追加する。
④ 具材が混ぜたら、器によそい、錦糸卵とインゲン(グリーンピースなど)をかけ、最後にナンテン菜を飾る。
⑤完成

酢漬け(酢の物)

① 具材をカットする。きゅうりやにんじん、カブは透けるくらい薄く切る。
② 酢と砂糖で合わせ酢をつくり、

煮豆

材料:ニシキ豆
調味料:砂糖、塩少々

① 豆を一晩水にかして(戻して)おく。
②温めて沸かして、火を止めて冷ましてを繰り返す(約3回)、そうするとふっくらと炊ける。地元では「なぶりながら炊く」という。通しで2時間程度かかる。

白和え

材料:豆腐、ほうれん草、にんじん、かまぼこ、こんにゃく
調味料:砂糖、塩、白ごま(すりごま)

① 具材をカットし茹でる。湯切りする。豆腐はカットせずに茹でる。
② 豆腐をすりこぎ(すり鉢)で潰す。豆腐だけで味を調え、他の具材を入れて再度整える。

たらいうどん

材料:

大豆 1合
いりこ 一握り
乾しいたけ 塊であれば10個 またはカットであれば一握り
醤油 200ml (適量)
砂糖 25g (適量)
みりん 

①前日から水で戻した大豆を茹でる。水を大豆が浸かるよりも2cm程度入れる。中火で20-30分火にかけていきます。茹でている間に干椎茸を戻す。

②戻した干椎茸といりこを鍋に入れ、濃口醤油も出汁が真っ黒になるくらい入れる。

③砂糖とみりんで味をととのえて、完成。

見学して気づいてみたこと

見学した際に気づいたことがいくつかあった。特に習慣や暮らしの変化についてで気づいたことをまとめてみる。

・基本的には年長者の方が味付けをみる。

今回のメンバーで一番の年長者が味付けを見ていた。一番若手が、食材のカットや洗い物を率先して担当していた。何事も年長者を重んじる日本の文化なのかなと思った。年長のばあちゃんは特殊な醤油をもっていた。そして全ては目分量で味付けしていく。自分の舌と感覚がなせる技だった。

・しきわごとは会話の宝庫

作業は濃密なコミュニケーションの場だなと感じだ。食を伝えるだけではない、他愛もない会話や愚痴、皮肉の効いたジョーク、さまざまな言葉が行き交う場となっていた。しばしば男女で別れるタイミングもあり、そうなるとやはり男は黙り、女性はどんどん会話に拍車がかかる。おばちゃんたちの情報網はこのような場から作られていたのだと感心した。

・出汁や食材の使い回し

お煮しめで使った出汁はいり焼きに使い、かまぼこをつけていた合わせ酢は酢飯にそのまま入れていた。お煮しめの具材で角を取ったり残ったものはかき揚げで賄いで食べ、本当に捨てるものがない。もったいない精神が素晴らしいなと感じた。

まとめ:知恵の集結

おじいちゃんおばあちゃんたちの持っている知恵や技はとても大きくて深い。しきわごとの料理を覚えるには何度もやって覚えるしかない。何度も続けるには楽しんでやる工夫もあり、それがコミュニケーションの場としての機能も孕んでいるのかもしれない。日々の暮らしの中で技と知恵を学ぶノウハウが集落に記憶されていたのだろう。

では今後、どのようにすれば地域の食の宝である「しきわごとの料理」が残せるのだろうか。他の地域を見渡せば地域食堂や道の駅のレストラン、民宿などがしきわごとの料理に近いものを作っている。現在の求めているものや人に合わせてしきわごとの料理を残していく工夫を続けることが大切なのかもしれない。

文:岡山紘明

撮影:水本誠時、岡山紘明、古荘みち子